「さまよえる湖」「楼蘭」「敦煌」「陽関」~シルクロードは欲望の道である~

はじめに

私たちはいま「さまよえる湖」を探しています。

湖は、どこに消えてしまったのでしょうか?

探しているのは、新型コロナウイルスを治療してくれる「湖」です。

むかし、探検家ヘディンが探して発見した「さまよえる湖」とダブります。

さて、最近の不安定な話を横に置いて今回は「歴史ロマン」で行きましょう。

「シルクロード」。何ともロマンティックな名前ですが、これは19世紀に、ドイツのリヒトホーヘンが名付けました。

この道はロマンどころか、人間の「欲望が交叉する道」でした。

「利益の追求」も、未知なるものへの「憧れ」も、どれも欲望の中身です。

と言っても、漢代の物流・商品の中心は「絹・シルク」でした。

生死をかけても、有り余る「利益」が期待できる道でした。

君のシルクロードの売りは「学力」ですね。絶対に消えない知的財産です。

受験アドバイス

タクラマカン砂漠は、地下資源の宝庫であるといわれています。

ウイグル族が居住している新疆ウイグル自治区には地下に油田があります。

これを狙って、中国の中央政府とウイグル族との紛争が絶えないですね。

「海のシルクロード」もあります。福建省泉州市を起点とした海上の道です。

明代の鄭和(ていわ)は、イスラム教徒だったので、イスラム圏の航海が許され、アフリカ東海岸(マリンディ)までいっています。現在の中国政府は、海上覇権を狙って「海上の道」を確保しようとしています。その出口である尖閣諸島で、日本政府ともめていますね。「シルクロードは欲望の道」です。

さまよえる湖 ロプノール湖をさがす

君に、シルクロードの旅をぜひ体験して欲しいです。

私は高校時代にヘディン(スウェーデン)の『さまよえる湖』を読んで、ロプノール湖を探してみようと思いました。

ヘディンは、古い記述に従って、タクラマカン砂漠の中で湖を探す冒険に出たのです。19世紀末です。

私は、ヘディンが、ロプノール湖を探す冒険譚にワクワクしました。

「漢書」など古文書にある「大きな湖」が、他の地に移動してしまうなんて、理屈にあわないことはない。

絶対あるはずだ。では、どこに消えてしまったのか?

そして、彼が調査を続けたところ「さまよえる湖」は、砂漠の中を転々と移動していたことが分かりました。

何と不思議なロマンあふれる話ではないでしょうか。記録は正しかったのです。

受験アドバイス

2018年に経団連が発表した「企業が求める能力」のベスト3は1.「主体性」、2.「実行力」、3.「問題設定・解決能力」です。「さまよえる時代」に要求される能力は君が主体的に仕掛けていく実行力なのですね。受け身ではないです。

君の「売りは何ですか?」。ライバルに「差をつける切り札」のようなものです。受験学力では「教科」です。その基本は「主体性」にありますね。

楼蘭の美女

楼蘭は、ロプノール湖畔に栄えたシルクロードの中継都市でした。

「ウルムチに行ったら、楼蘭の美女に逢うことができる」と聞いて、私はウルムチ・トルファンの旅にでました。

荒涼とした遺跡があるだけでした。

この都市が栄え衰退していく「時代」を背景として、井上靖さんが『楼蘭』という小説を書きました。

推薦図書の一つです。

美女のミイラ
美女のミイラ 【画像の引用元
楼蘭
楼蘭 【画像の引用元

映画化もされた「ドラマティックな物語」でした。美女と言っても、3800年前のミイラです。

みんな砂漠の砂の中に消えてしまったんですね。

受験アドバイス

気候変化により「砂漠化」が進み、西域地域に栄えた国々(オアシス都市)の多くが滅亡しました。いまもなお、河川の枯渇が大問題になっています。

ロプノール湖と同じ大きさの「カスピ海」は、旧ソ連の経済政策で、綿花やコメなど「水」を大量に必要とする作物をつくる中で消滅してしまいました。

前者は自然地理。後者は人文地理の世界です。学問の角度に留意しましょう。

漢代の交河古城を歩く

交河古城は、漢代(前2世紀)の要塞都市です。

三蔵法師が唐代に滞在した高昌古城は少し離れたところにあります。

トルファンの近郊にある交河古城は中央に大きな通りがあって、東西に分かれています。

東のエリアは官庁街、西のエリアは寺院エリアです。

崩れた50余りの寺院や仏塔が栄華をしのばせます。

昔の「寺院は学問するところ」でした。大学のような役割を持っていました。

土塀が干からびてカサカサになった古代遺跡を一人で歩いていると、何やら人のざわめきが聞こえてきた。

言葉はわからないですが、確かに人間の声です。

振り返ってみると誰もいない。風がスーッと通り抜けていっただけでした。

受験アドバイス

仏教はインドで始まりましたから、中国に伝えるために、西域の学僧たちが果たした役割は大きかったです。特に、鳩摩羅什(くまらじゅう)はインドの貴族と亀茲(クチャ)の王族の女性の間に生まれた混血児でしたから、サンスクリット語(梵語) も漢語も理解できました。彼は、インドにあって、漢にはない概念を大胆に取り入れて「仏典を漢訳」しましたから、後に議論が分かれました。彼が漢訳した仏典を、現在の私たちもたくさん使っています。例えば、『仏説阿弥陀経』・『摩訶般若波羅蜜経』・『妙法蓮華経』などです。阿弥陀経にある「極楽とか地獄の概念」はインドにはありません。

敦煌 莫高窟のロマン

敦煌の「莫高窟」が有名になるきっかけは興味深いですね。

ある日、乞食のような道士(道教の修行者)が、小さな洞窟でたばこをすっていました。

すると、煙が洞窟の小さな壁の隙間に吸い込まれていくのです。

不思議に思って道士が壁を叩いてみたら、壁が崩れて大量の巻物が出てきたのです。

何者かが、何かの理由で、壁の中に、大量の書物・絵画を隠しておいたのです。

誰が、なぜ、隠したかは永遠に解けないでしょう。

これが「莫高17窟」とよばれるものですが、文書の価値が分からない道士や地方官をしり目に、イギリスの冒険家スタインやフランスのペリオらが、数点の資料や絵画を超廉価で買い込んで母国に持ち帰ったところから「敦煌学」がスタートしました。

私は、莫高窟を見て回りましたが、西夏時代のブルーがとてもきれいでした。

また「飛天」がとても美しいです。私の書斎の壁には、土産物に購入してきた飛天が、悩ましく舞っています。

受験アドバイス

イギリスのスタインが持ち帰った壁画の一部は、大英博物館に収蔵されています。フランスのペリオが持ち帰ったものは、フランス国立図書館にあります。

日本の大谷探検隊が持ち帰ったものは龍谷大学や国立博物館にあります。美術品と見るか、歴史資料と見るか。保存と所有権について意見が分かれています。

万里の長城のはずれは「陽関」と「玉門関」である

北京郊外にある「万里の長城」は、明代のものです。

私は、漢代に造られた「長城」の地の果てまで行ってみたいと思い、シルクロードの最先端にある「陽関」と「玉門関」に行きました。自動車を走らせると、はるか向こう、砂漠の中の高台に「遺構」がありました。その先は砂漠の中でした。

漢の武帝は、遊牧騎馬民族の匈奴をとの闘いのために、長城を整備しました。

いま私たちは新型コロナウイルスに対抗する「人類の長城」をつくるために努力しています。

これまでバラバラだった各国が協力してWHO以上の「世界政府」が実現したら「新しい長城」となるはずです。

新薬の研究の国際協力が実現なくして、強敵に勝つことはできません。

君が活躍するステージのひとつです。

陽関
陽関 【画像の引用元
明代の長城
明代の長城 【画像の引用元

受験アドバイス

王維の詩『送元二使安西』は、「元二」という友人が西域の地に赴任するにあたり詠った『送別』の詩です。友人への情愛が伝わってきますね。

渭城朝雨浥軽塵 客舎青青柳色新

勧君更尽一杯酒 西出陽関無故人

「訳」渭城のまち(街はずれ)に降る朝の雨は、軽やかな黄土の塵をしっとりとぬらしている。旅館のかたわら、柳の木々は雨に洗われて青々と茂り、目にしみるような新鮮さである。さあ、もう一杯、酒を飲みほしてくれ給え。西のかた遠く陽関を越えてしまったなら、もう共に酒を酌みかわす親しい友もいないだろうからね。

(安達昌二:お茶ゼミ√+特別顧問)

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