果てしないヨーロッパ美術の魅力~17世紀から21世紀にかけての絵画の流れ~
はじめに
世界中に、いろいろな絵画があります。
入試対策の一環として、ヨーロッパの絵画の「流れ」を整理してみましょう。
知識がバラバラでは、わかりにくいからです。
魅力的な作品が多いですから、観方を決めた方が、楽しみが倍増しますね。
好きな絵画を、「ひたすら観て楽しんでいればいい」という人もいますが、私は一点に縛られず、幅広く、多様な楽しみ方を勧めます。
「デジタル端末機」を使って、楽しみ方と学習の深化を図ってください。
17~18世紀:王侯貴族がスポンサーの時代
17世紀~18世紀の絵画の主流は、「肖像画」でした。
肖像画のモデルは、スポンサーの王侯・貴族が多かったです。派手にカッコよく、かなり修正を加えて描いている“作品”が多いです。「写真」がない時代ですから、絵画で『お見合い』をしたり、縁談を進めたり、お城の中を飾ったりしたのです。その他、タペストリー・織物が豪華でした。
画家は職人でしたから「宮廷画家」になることが最高目標でした。
宮廷音楽家もお抱え職人でしたね。独立した「芸術家」ではなかったです。
しかし、宗教改革の影響で、ローマ教会は神の栄光を讃える「バロック様式」を推奨しました。ゴテゴテした様式から、やがて洗練された「ロココ式」に発展します。
この時代の代表的な画家は、ルーベンス、ヴァン・ダイク、ベラスケス、エル・グレコなどです。
19世紀:市民階級がスポンサーになった
19世紀の絵画のスポンサーは市民階級でした。社会の主導権を握った新興の市民階級(ブルジョワジー)は、王侯・貴族たちの趣味から脱却して、多種多様の絵画を求めました。新しいスポンサーの土壌が生まれたのです。
画家自身も、自由に発想し、主体的に画材を選んで作品にしたのです。
例えば、オランダの海洋貿易で財を成した市民は、「海洋風景」「静物」「街の暮らし」を描く絵画を好みました。色とりどりの絵画が生まれたのです。
- 「自然主義」…ミレーの「晩鐘」「種まく人」などが典型ですね。
- 「印象派」…ピサロ、マネ、モネ、ルノワールなど人気絵画が多いです。
- 「写実主義」…クールベの作品をみると生活に密着した対象ですね。
- 「後期印象派」…ドガ、ゴッホ、ゴーギャン、馴染みのある作品ですね。
19後半~20世紀:油絵から、デザイン絵画へ
19世紀後半~20世紀にかけて、スポンサーの要求以上に「画家の自己主張」が強くなります。だから、一定の潮流とか統一性を決めきれないですが
- 「アールヌーヴォー」…芸術の新しい波。ガレのガラス絵などです。
- 「ウイーンを中心とした世紀末の美」…クリムト・シーレは独特です。
- 「シュルレアリスム」…ダリを代表とする超現実主義です。
油絵は建築物の壁画になったり、上流市民の邸宅の装飾になったりしました。
- 「フォーヴィスム(野獣派)」…マティス、ドラン。原色を多用し激しい色彩
- 「キュビズム」…ピカソ、ブラックの多角的な焦点から描く手法が特徴
20~21世紀:企業がスポンサーになり、印刷技術が発達
20世紀から21世紀にかけて、猛烈なスピードで印刷技術・写真が発展し、絵画との間にあった「壁」を打ち破っていきます。印刷技術の発展が、一点ものの「油絵」から多様な美術品を生み出しました。版画・複製画・写真は、瞬く間に「市民の生活の一部」になったのです。そして「大衆社会の到来」とともに、絵画市場が確立し、絵画を売買し、評価する位置も変わりました。
絵画が、企業や市民の資産になり、商品になりました。「絵画の価値」が、急速に経済力を持った市民の間に普及していったのです。
アンディ・ウォーホルはアメリカの画家です。彼が「現代アート」に与えた影響は計り知れなく、現代のCM・NFTアートに通じる道を開いています。
振り返ると、ルネッサンス期にドイツの画家デューラーが、「木版画・銅版画」の作品をつくり、「油絵とは異なる印刷の美」の世界を切り拓きました。
「エッチング」に繋がる作品を生み出し、大量生産が可能になりましたね。
時の流れと共に、絵画の親しみ方が変化していったのです。
<テーマ1> 市民階級の台頭を象徴する作品
「夜警」という絵画はレンブラントの作品です。市民たちが、街の夜警に集まっている絵画です。出資者が集団で絵画に描いてもらおうとしたのですが、レンブラントは、中央に光を集めて、他の人は背景にして描いたので怒っちゃったという作品です。経済力を持った上級市民の動きです。レンブラントは、「光の画家」といわれますが、光を有効に使った新しい手法で描いています。
また、これまでの絵画には登場しなかった「市民」や「農民」の生活が画材として登場してきます。この画材なら、王侯・貴族は買いませんね。(笑)
<テーマ2> 政治的な意図をもって描かれた作品
政治的な意図・宣伝・啓発・告発に絵画が使われた作品があります。これは「芸術ではない」という人もいますが、私は、ひとつのジャンルだと思います。
「民衆を導く自由の女神」は、ドラクロワがフランス革命の精神を表現したもので人々に大きな影響を与えました。逆に、ナポレオンは自分を崇めさせるための絵画をダヴィッドに沢山描かせました。まさに政治宣伝の絵画です。逆に、スペインのゴヤは、自由の精神を体現したナポレオンを尊敬し、圧政に苦しむスペインの民衆の解放を期待したのに、実際は「フランスの侵略者」にすぎなかったので怒って「マドリード、1808年5月3日」を描いて告発しています。
<テーマ3> ウイーンを中心とした世紀末の美
19世紀末期、ウイーンを中心とした美術界は、古典的な時代から、耽美的な新しい流れを生みだしました。ウイーンのスポンサーは「金持ちのユダヤ人」が多かったのです。画家を志したことがあるヒトラーが狙い、略奪しましたね。
クリムトは、油絵でなく、デザイン化した金箔作品が多く、官能的で魅惑的な作品をたくさん創作しました。エゴン・シーレは、自虐的な作品が多かったですが、独特の世界観で「人間の内面」をえぐる絵画を描きました。
1890年代は「世紀末芸術の時代」ともいわれ、ノルウェーのムンクは、自然と人間の深いかかわりを表現し、「叫び」のような作品を通して、人間の繊細な感性・不安を描きました。
<テーマ4> ルネサンスの巨匠たちの作品
ルネサンス期の巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ボッティチェッリは凄いですね。スポンサーのメディチ家の存在も忘れることができません。天才たちは、それぞれ個性的です。ダ・ヴィンチは、万能の天才で、絵画はその中のひとつにすぎませんでした。ミケランジェロは、自分は彫刻家だといっています。彼のピエタの聖母マリアは若すぎると思いますね。(笑)
ラファエロは「工房」を持ち、たくさんのスタッフに仕事を分担させて「顧客の要望に応えた」といわれます。バチカンの「システィーナ礼拝堂」に行けば、ミケランジェロの驚嘆する絵画に出会うことができます。
「絵画の素材」はキリスト教にまつわるものですが、表現されたものは古代ギリシャ・ローマで現世的・快楽的です。ボッティチェッリの絵画を観ると禁欲的では宗教的でないことがよくわかります。ラファエロの「アテネの学堂」も描かれたギリシャの哲人たちは、まさにキリスト教の枠を超えたものでした。
<テーマ5> ルネサンスの美(再生)が顕すもの
ルネサンスとは「再生」という意味です。キリスト教の「現世否定の美」から、「現世的肉体的な美」の再生・復活です。ギリシャ・ローマの絵画は残っていませんから、作品は彫刻です。海や山から、掘り出したものだからです。
作者不詳ですが、魅力的ですね。ミケランジェロが彫刻で目指していたものは、この肉感的な美であったと思います。比較するとそっくりですね。
<テーマ6> 近代彫刻はロダンから
市民の人々は、絵画だけでなく、彫刻にも関心を寄せました。これに相応して優れた作品がたくさん生まれましたが、そのきっかけを逞しく謳いあげたのはロダンです。
「カレーの市民」という作品は、百年戦争でイギリスに敗北したカレー市を救済するために、「英雄的自己犠牲」を献じた6人像を製作することをロダンに依頼しました。意気軒高とした勇者の像を期待したのに、ロダンが製作した作品は、悩み・苦しむ人間像だったので、市民たちは怒ってしまい受け取りを拒否したという作品だったのです。
日本の高村光雲はロダンの影響を受けた作品をたくさん残していますね。
ブールデルは、より近代的な彫刻の世界を拓きました。そして、ヘンリー・ムアなど、新しい抽象的な彫刻が沢山生まれました。
<テーマ7> 大学入試に使われた絵画と背景
大学入試で出題されている絵画を調べてみました。早稲田大の文化構想学部・文学部など、すでに沢山出題されていますね。
その中でも、ピカソのゲルニカは「使われやすい絵画」です。市民が、ナチスの無差別爆撃を受けたゲルニカの街・人々を描いて戦争を非難した絵画です。
最近では、ミュシャが注目されていますね。
彼の美しいイラストポスタ―が有名ですが、彼は故郷のチェコに帰り、「スラヴ叙事詩」(12枚)を描いたのです。この絵画は、スラヴ民族の「民族意識」を高揚させる絵画だからといって、ミュシャ自身が弾圧され悲劇を招きます。
「夜警」「ゲルニカ」「ミュシャ」などの絵画・背景が入試で出題されています。デジタル教科書の時代ですから、積極的に探究することを勧めます。
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