WBC:憧れるのは、やめましょう!~大谷選手の言葉はなぜ説得力を持っているのか~
はじめに
“青い鳥”は、憧れの国で飛んでいるのではない・・・
過去の世界に飛んでいる青い鳥は、「過去」から出たら死んでしまう。
未来の世界で飛んでいる青い鳥は、「未来」から出たら死んでしまう。
バーチャルな世界の青い鳥は、「現実」の世界で飛ぶことができない。
では、“青い鳥”はどこに飛んでいるのでしょうか?
山の向こうの空遠くに飛んでいると、伝え聞く・・・
そこで、私は“青い鳥”を求めて旅に出たのだが・・・
私が求める“青い鳥”はどこにも見つからなかった・・・
気が付いてみると、青い鳥は、私の手が届くところにいた・・・
というけれど・・・、いまの私には「青い鳥」がみえない・・・
「憧れ」が「現実」になった時、手元に飛んで来ると言うけれど・・・
受験アドバイス
受験生の青い鳥は「合格通知」ですね。自分がやりたいことに「憧れ」、そのために努力するのです。積極的に授業を受け、模試も受験し、スコアのアップを図るのです。が、「合格することが目的」の人には、青い鳥は籠から逃げ出してしまいます。
合格はどこまでも「通過点」に過ぎません。合格の向こう側で飛ぶ青い鳥を、しっかり見つめて勉強しなくては、合格は単なる「レター」に過ぎなくなるのです。
憧れてしまっては、ライバルを超えられない
WBCの決戦を前に大谷選手が発した「言葉の力」はすごかったですね。
「憧れてしまっては超えられない。僕らはライバルを超えるために、トップになるために来たのです。きょう1日だけは憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」。決戦を直前にした円陣で、大谷選手がナインに向かっていった言葉です。君が知っているとおり、ものすごい「言葉の力」は、最高の檄でしたね。率先して「戦場に向かう日本の武士」の言葉。その背景にあるものは、彼自身がメジャーリーグに憧れ、メジャーリーグで戦い、メジャーリーグの修羅場で鍛えられた「実績」です。これをチームの仲間が知っているからこそ「説得力」あったのです。檄への「共感」が、ライバルの大スターたちの前で「怖じ気」を吹き飛ばし、勝利を引き寄せる「闘争心」に火をつけました。「言葉の力」がナインの潜在能力を引き出したのです。チーム仲間を愛し、スポーツを愛し、身をもって戦う姿勢が、ナインに「inspire」したのです。
同じようなことは、他の選手も言ったことがあるとしても、大谷選手の「人間力」が際立っていたので「共感」が「強さになった」のです。奮い立った武士たちは、「憧れを実力に替え」て、大きな勝利に繋げたのです。大谷選手の「言葉」はナインを動かし強くしたのです。言葉の力は大きいです!!
受験アドバイス
東大に入学したいという「憧れ」では、合格することができません。憧れを「実力」に替える具体策が必要です。君の「目標設定」の意義が問われていますね。海外の一流大学を志望する場合には、学力だけでなく「勉強以外に何を持っているか」が問われます。私の家族に、アメリカ・イギリスの大学を卒業した者がいますから、よく理解しています。海外入試では、オックスフォード・ケンブリッジ大学の「世界一考えさせられる入試問題」Do you Think you are clever(河出文庫)が参考になります。
「山のあなた」は素晴らしい翻訳
Über den Bergen
Karl Busse
Über den Bergen, weit zu wandern,
Sagen die Leute, wohnt das Glück.
Ach, und ich ging im Schwarme der andern,
kam mit verweinten Augen zurück.
Über den Bergen, weit, weit drüben,
Sagen die Leute, wohnt das Glück.
この「山の向こうに」というドイツ語の詩は、カール・ブッセの作品です。
内容を直訳すれば「山の向こうの空の遠くに、幸せが住んでいると人々がいうので、私は探しに行きました。しかし、幸せを発見することができなかったので、涙をこらえて帰ってきました。それでも人々は、山の向こうに、幸せが住んでいると言います」。高いレベルの、ロマンあふれる詩です。
このロマン派の難しい詩を、上田敏が見事に日本語に翻訳しました。「海潮音」という訳詞集にあります。国語の教科書で学習したでしょう。
山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとゝ尋とめゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。
・・・何と見事な翻訳でしょうか。原作者のイメージ・思いを、見事に日本語に置き替えています。これは「チャットGPTでできる技術ではない」です。
翻訳上のテクニックはともあれ、抽象的な目に見えない「幸」を探すところに注目したいです。この分野を志望する君に習得して欲しい「センス」です。
受験アドバイス
明治になってから、急激に西洋文化が大量に入ってきたので、それを「どのように翻訳するか」が大問題になりました。「漢文にない概念」があるからです。例えば、philosophyを「哲学」と西周が翻訳しました。また、解釈が多様にできるLoveを、どのように翻訳するのが適切か?・・・結局「愛」と置き換えることが普及しましたが、西洋と日本では「基本概念」が異なりますから<Love=愛>の訳には無理があります。また「日本国憲法の前文」も英語でした。これを柴田元幸とGHQのコートニー・ホイットニーが翻訳したものです。原文と翻訳を比較してみてください。
「青い鳥」はどこに飛び去ったのか?
メーテルリンクの童話劇のラストはどうなっているでしょうか?
最後に、チルチルとミチルが「青い鳥は僕のものだ」「私のものよ・・・」と争っていると、せっかく見つけた「青い鳥」が鳥籠から逃げて、どこかに飛び去ってしまったのでしたね。
「過去の国」に行き、「未来の国」に行って青い鳥を見つけた二人でしたが、どの世界からも青い鳥を「連れ出すと死んでしまい」ました。そして迎えたクリスマスの朝、自宅の鳥籠をみると飼っていた鳥が青い鳥になっていたことを発見しますね。幸せの青い鳥は手元にいたのです。多くの日本の児童書はここで終わっています。が、物語の結末はシビアで青い鳥が逃げてしまうのです。
「青い鳥が逃げてしまった」という結末は、どのようにも解釈できますが、「死と生命」の語るものとして受け止めるのが良いと考えます。青い鳥は、山の向こうで飛んでいるのではなく、「憧れ」でもなく、現実世界で「掴むもの」だということが示唆されていますが、「争い」の中では飛ばないのです。
ウクライナ侵攻によって、世界中から青い鳥が去ってしまいました。覇権国家中国とアメリカを基軸として、各国が駆け引きを繰り返し、イスラエルがガザ地区を攻撃するなど「戦争が拡大」する危険性がいっぱいです。そして、人間とコロナとの闘いは「withコロナ」という方向で収めようとしていますが、パンデミックが収まるかどうかわかりません。いまや、青い鳥はいないのです。
受験アドバイス
若山牧水の歌に「幾山河 越えさり行かば 寂しさの終てなむ国ぞ 今日も旅ゆく」があります。牧水の歌の主旨と異なりますが、自分が目指す「高み」が存在すればするほど、人生には「幾山河」があります。大谷選手は「いまがピークだ」と絶対に言わないです。「まだ先がある」「通過点に過ぎない」のです。彼の「優しさ」「思いやり」は、高みを目指す行動の一環ですね。個人的な「寂しさ」を感じるのは、まだズット先なのでしょう。君が、学問・研究・芸術・スポーツ・ビジネスなど、どの分野に進むにしても「幾山河」があって、その向こうに飛ぶ「青い鳥」を探し続けることでしょう。「情熱」が、次の幾山河を求めるからです。
憧れを可能にする試み:量子コンピュータ
量子コンピュータ開発の試みは「憧れ」を「実現化」する試みです。実用化するには、20~30年かかるだろうと言われています。が、その歩みが本格的に始まっているのです。山の向こうにある「量子コンピュータの実用化」が、私達の生活は一変させるのです。この分野の人材が求められています。君が活躍する舞台です。
2023年3月、理化学研究所・産業技術総合研究所・大阪大学などが中心になって発足したRQCは「国産・超伝導量子コンピュータ初号機」の開発を発表しました。現在のビット数は「64」ですが、2030年には「100万量子ビット」の開発を目指すのだそうです。実用化には「100万~1,000万以上のビット数」が必要だといわれますから、今後、100万量子ビット・1,000万量子ビットを達成するには、相当の努力を継続して行う必要があります。
量子コンピュータの発想のスタートは、RQCの初代センター長になった物理学者の中村康信氏です。彼は、1999年に世界で初めてNECで「量子ビット」を開発した人です。
ちなみに、アメリカのIBMが127量子コンピューティングタプロセッサ「Eagle」を発表し、2023年4月に、東大がIBMの量子コンピュータを導入すると発表しましたね。RQCは、アメリカや中国の開発に追従するのではなく、日本の科学技術力を結集し「日本のプライド」を示そうという組織です。
どの国の開発も、実用化には相当の歳月がかかると思います。高いレベルの競争は楽しいですね。君もしっかり勉強して、開発に参画してください。
受験アドバイス
量子コンピュータには大きく分けて、「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」という二種類の計算方式があります。
従来のコンピュータは「0と1の2進法」の世界です。「電流の有無で0と1」を区別し、1ビットは0か1かのどちらかを表しますが、量子の世界には「重ね合わせ」や「もつれ」といった不思議な性質があるので「1量子ビットで0と1を同時に表す」・AとBという2個の量子ビットがあるときに「Aが0(1)ならBは必ず1(0)になる」のです。君は、この基本を理解していますね。
日本は2020年に「量子技術イノベーション戦略」を策定し、産・官・学が結集して、基礎研究から、技術の実証、人材育成まで多角的に取り組みを始めていました。が、今年(2023年)になって理研内に「量子コンピュータ研究センター(RQC)」という「量子技術イノベーション拠点」ができたのです。
私は専門家ではないからこれ以上は解説ができませんが、「量子コンピュータの実用化」が現実味を帯びてくると、欧・米・中国など強力な国家が「量子技術研究に力を入れる」のは当然ですね。国家利益・世界覇権の問題ですから、日本も頑張る時が来ています。
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