もし「大きな庭園」を造るとしたら・・・~造園スタイルから観る世界~
はじめに
君が「庭園」を造るとしたら、どんな“作品”に描くだろうか・・・
まず、図面を広げてデザインを考え、デッサンをしてみる・・・
真っ白な紙(Web)の上に、最初に、どこから、どんな線を引くか・・・
イメージがなければ、何も描くことができない・・・
自分の好みと、マスターした知識と、これから積み上げていく技術と・・・
どれくらいの経費をかけても良いか。時間も計算しなければならない・・・
これは、君の人生設計と同じことだ・・・どこに進学して、何を学ぶか・・・
これからの世界の勢力地図でも言えることだ・・・
庭園を比較しながら歴史・伝統・文化と、今後の世界を考えてみよう。
コラム【地図は出来るだけ大きい方がいい】
描く地図は、できるだけ大きく、ロマンがあるほうが楽しい。「何かになりたい」「何かをしたい」というような夢は、必ずしも叶えられるものではないが、若い時は手を伸ばして、大きく描くのがいい。若い時に描いた「大志」「野心」「希望」「夢」が生き方を決めてしまう。友人・知人を見ていると、「終わった」と思うとそこで止まってしまうのですね。私の「旅はまだ終わらない・・・」です。
自然を尊重する日本・改造する海外の庭園
いろいろな国を旅していると、その国の伝統・文化と相違点が目につきます。
日本の庭園は、自然を模倣し、自然を尊重する点が特徴です。
美しく豊かな自然が、日本人の美意識の基調にあるからでしょう。
「植栽」「滝」「石組」を見ると心が和みます。「池」を中心にして土地の起伏を生かし、「築山」をつくり、「庭石」や「草木」を配し、四季折々に観賞できる工夫をします。
これに対してヨーロッパ諸国の庭園は、「左右対称」「幾何学模様」のものが多く「人工的」です。自然を改造し、人間の手で「つくりかえる」という思想の顕われでしょう。
西洋庭園は、見たり歩いたりして楽しむために、樹木を植えたり、噴水・花壇を造ったり、整備された施設です。作庭する目的方法は、時・時代・民族・宗教などによって異なり、様々な様式を生み出しました。
コラム【自然に対峙する姿勢の違い】
イギリスのフランシス・ベーコンは「自然を改造することが人間を幸せにする」といっていますが、この「知は力なり」の考え方が、庭園にも表現されているのかもしれません。
いま友人が難病を罹って苦しんでいます、西洋医学で手術しても投薬しても、「どうにもならない」ようです。そこで、東洋医学を専門にしている医院に通い、鍼灸の治療を受けています。人間の肉体に対する「西洋と東洋の違い」なのでしょう。友人は大気に身を委ねるようになったら、気分が安らぐようになったといっています。どちらが「治療法として最適」なのかはわかりませんが、このふたつをコラボしていくのが良いのではないかと思います。
噴水の歴史は面白い
むかしの日本庭園は噴水を使いません。馴染み深いのは、金沢・兼六園の「噴水」です。ここはすぐ上にある霞ヶ池が水源となって、地下に石管を通して、高低差による水圧を利用して水を噴き出しています。
しかし、豊富な水がある日本と異なり、牧草・乾燥地帯に住む人にとって、噴水の仕組みは生活上の重要な問題でした。メソポタミア・エジプトが噴水の発祥地と言われますが、世界中でいろいろな試みが行われました。その中で、古代ギリシャの数学者・ヘロンが紀元1世紀に発明したと言われる「仕組み」が有名です。君も中学校の理科の実験で学習したでしょうね。
コラム【ヘロンの噴水の原理】
ヘロンの仕組みは、上の容器内の水が下へ流れることで、下の容器内の空気圧が大きくなり、下の容器の水が管へと押し上げられ、上に噴き出すというものです。下に落ちる水の力で、空気を圧縮してポンプのように水を噴出させる仕組みですね。
噴水は、民衆の飲み水(生活水)を確保するなどのほかに、権力を誇示するために造られたものが沢山あります。「噴水の歴史」を探求すると面白いです。
権力誇示で造られた庭が多い
私が知っている「世界で最高の庭園」は、フランスのヴェルサイユ宮殿です。バロック式の絢爛豪華な宮殿・周辺に配置された庭園は見事です。平面幾何学模様の庭です。この丁寧に整備された庭園は、華やかな歴史の舞台でした。ブルボン家の富と権力を誇示する庭園ですから、1,400余あるといわれる見事な噴水を見て回るだけでも一日かかります。私は、王侯・貴族になった気分で散策してみましたが、身分相応、一部分しか歩くことができませんでした。
この宮殿に対抗して造られたウイーンのシェーンブルン宮殿はパプスブルグ家の権力を示すものでした。ロココ調で造られ、世界的な会議や舞踏会に使われましたが、庭園の豪華さはヴェルサイユ宮殿に劣りますね。
シェーンブルン宮殿の庭と並んで忘れられないのは、ロシアのロマノフ家のエルミタージュ宮殿の豪華さです。
私が訪問したのは、ソヴィエト連邦が崩壊し、日本がロシアを援助する時代でした。宮殿の豪華さの前で、ロシアを援助するなんて「とんでもない」と思いました。現在、美術館として一部分を開放していますが、夏の宮殿の「噴水」を見ただけでも度肝を抜かれます。「日本が支援している」といっても信じる人はいませんでした。こんな時代があったことを、しっかり記憶しておきましょう。
コラム
観光用に開放されているものは、権力を持った者、豊かな財力を持った者の庭園ですから、歴史的建造物といっても、王侯・貴族の私邸・教会・神社・寺院の一部分が多いです。公共に提供されているもの以外では、非公開の「特権階級」「官僚」「富裕層」の私邸には、高等な技術・素材を駆使した庭園がたくさんあります。セレブの私邸が、時々マスコミに登場しますね。が、私有物ですから公開していません。
日本庭園の特徴
「日本の庭園」には、著しい特徴があります。日々、顔をあげると山並みが連なり、風がそよぎ、花が咲く自然の景色があります。この「四季の風景」を、日本の庭園は積極的に取り入れています。
京都にある修学院離宮も、他国に負けないスケールで見事です。17世紀の中頃の後水尾天皇の別邸でしたから、平安貴族の美意識が固まっています。
日本庭園は、「見立て」といって白い砂を抽象化して海を象徴したり、「借景」といって背景に環境を利用することがあります。庭園の形式は「池泉回遊式」などです。「水」が山から流れ出し、大きな流れになってゆく様子を表現する手法など自然が表現されているのです。
時には、蓬萊山や鶴島・亀島などに「見立て」たり、通路に「飛び石」「八ツ橋」や、灯籠、東屋(あずまや)、茶室などを配置することもあります。こうした構成をみると、庭師の発想・構想・デザイン力が重要なことが判ります。
コラム
庭園のほとんどは現在でも私的なものですから、一般公開されていません。私は、私邸の庭を拝見することがありますが、見事なものが多いです。
西洋では、昔の貴族の私邸が「公共」によって買い取られ、ホテルや公園として開放されているものがあります。
中国の「頤和園」は歴史を証明する
幾多の戦乱・内乱が、中国の名園を破壊してしまいました。権力者が作った庭の典型は、北京の「頤和園(いわえん)」です。農業用の貯水池を兼ねていますから、スケールの大きさは、西洋式のgardenという規模ではありません。
香山公園から全体が臨める風景はあきれかえる規模です。清朝の乾隆帝の時代に掘削を拡大して、現在の規模になったといいます。政治と庭の関わりについて多くのエピソードがありますから、君自身で探求することを勧めます。
元官僚などの私邸では蘇州の「留園(りゅうえん)」「拙政園(せっせいえん)」が素晴らしいです。広大な土地に「楼」「閣」「亭」「台」などが配置され「奇岩怪石」が置かれています。神秘的で特異な空間がみられます。
「留園」は、明代に創建された私邸でした。園主の名前を取って劉園とよばれたこともあります。清代に改築され、後年民衆に開放されました。
庭園は自然にできることはなく、形、石の配置、樹木の選択と組合せ、通路の作り方、建物の見せかたなどすべてが意図的にデザインされています。
中国に「樹林」という言葉があるように、植物育成を意味する「林」という漢字が広い中華風の庭園を意味するといわれます。宮城・離宮・陵墓・私邸・仏教寺院に庭園があり、独自の環境文化がありますが、戦争・内乱で破壊されたものが多いです。
イスラームの庭園は、独特の美意識で
イスラームでは偶像崇拝が厳しく禁じていますから、生き物の姿を写す彫像や壁画がなく、建築は アラベスクなどの幾何学模様や唐草模様で飾られています。庭園も細部まで幾何学的に構成された形式で発展し、中東庭園の特徴となります。酷暑や熱風、砂嵐や炎天といった厳しい自然から身を守り、快適な環境を得るためには、外界の自然から隔離した避難所(サンクチュアリー)を作るようになりました。塀や建物で囲まれ、涼しい木陰と水とを配しました。
スペインのグラナダにある『アルハンブラ宮殿』に行ってみると、その精密さに眼を見張ります。幾何学的に園路や水路、園亭や噴泉が配置されたイスラーム庭園は、まさに「地上の楽園」というべき香気と安楽さに満ちています。
コラム
いま、ウクライナの侵攻が問題になっていますが、「庭園文化」を比較しただけでも、伝統と歴史の違いが明確です。西欧式庭園が「すべてでない」と同様に中国式で、世界の庭園が「一元化」されるとは考えられません。ましてや、日本式庭園の文化が、すべてを担うものではないことも明確です。私は第67回のコラムで、「旧い三国志」になぞらえて、「現代の三国志」について書きました(2021・11・25)。その中で『アメリカ+EU』『中国+ロシア』『イスラーム圏』の三つが次の世界のバランス地図になると述べました。相違点を尊重し「共生」の姿勢こそ大切な世界文化だと考えています。
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